今回は、遠藤由実子さんの『夜光貝のひかり』を紹介します。
夢をあきらめかけた少年と、記憶をなくした幽霊少女。奄美大島を舞台にした、一夏の淡い恋と成長の物語です。
児童書として刊行された作品ですが、大人の私にも、立ち止まって考えたくなることがたくさんありました。
当たり前の日常があること。好きなことに打ち込めること。そして、夢がその時に思いどおりに叶わなくても、自分を磨いた時間には意味があること。
短い物語だからこそ、急いで読み終えるのはもったいない。もう少しこの奄美の夏を、彼方とルリと一緒に過ごしていたいと思えた一冊です。
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①あらすじ
サッカーが大好きな小学6年生の彼方は、夢に破れ、何もやる気が起きない夏休みを迎えていました。
両親に勧められ、親戚の住む奄美大島で過ごすことになった彼方。そこで出会ったのは、海辺にたたずむ、セーラー服姿の幽霊少女・ルリでした。
自分の記憶を失っているというルリ。彼方は、彼女の記憶を探していくことになります。
少女が忘れてしまったものは何なのか。そして、その記憶に触れた彼方は何を感じるのか。
奄美の夏の中で、二人の時間が動き始めます。
②読んだきっかけ
きっかけは、Xのタイムラインに流れてきた本作の紹介でした。
『夜光貝のひかり』というタイトルが気になって、手に取った一冊です。
どうやら発売して間もなかったころだというのもあり、書店にいけば置いてあるだろうと思ったら…
いつも読む一般の書籍にはなく、店舗内で検索をかけたところ、児童書?
購入当時は私は児童書というと、『ハリーポッター』くらいしか思いつかないくらいで、児童書コーナーに行くのも読書を趣味にしてから初めてでした。
正直、
児童書?(そのときは、対象年齢的に幼い子向け?という気持ちがありました)
っていう気持ちもありつつ、気になったタイトルなら児童書というジャンル?など関係ないと思って購入し読みました。
③感想・レビュー
(1)短い物語だからこそ、ゆっくり奄美の夏を感じていたい
本作は208ページの児童書です。文字量も比較的少なく、読むだけなら、それほど時間はかからないと思います。
ただ、早く読めるからといって、駆け足で読み終えてしまうのはもったいない。
私は、もう少しこの奄美の夏を感じていたいなと思いました。
夢に破れて、何もする気になれない小学生の彼方。そんな彼が、いつもの生活から離れた島で、不思議な少女と出会う。
一夏の淡い恋と成長を描いた物語……だと思うのですが、私にとっては、それだけでは収まらない作品でした。
読みやすい文章の中に、ふと立ち止まって考えたくなるものがある。子どもに向けて書かれた物語が、大人になった私にも届いてくる。そのことが印象に残っています。
(2)当たり前の日常も、夢を追える時間も、ずっと続くとは限らない
本作を読んで、特に考えさせられたのは「生きること」でした。
普段、当たり前に日常を送っている私は、何かが起きないと、その貴重さに気づけないところがあります。
明日も今日と同じように暮らせる。仕事もしなければならないけれども、自由に好きなことができる。会いたい人に会える。
しかし、なんとなく続いていくように思っている日々も、事故や災害、戦争などによって、突然変わってしまうことがある。
私自身、コロナ禍では、それまで当たり前だった生活が変わりました。私は幸い仕事も通常通りできましたが、コロナの影響で仕事をやめなければならない人もいたと思います。
学校行事や友人と過ごす時間など、思い描いていた青春を十分に過ごせなかった子供たちもいると思います。
そう考えると、夢を追いかけられることも、好きなことに一生懸命になれることも、決して当たり前ではないのだと思います。
本作は、私には「今、打ち込めるものがあるなら、その時間を大切にしてほしい」と語りかけてくれるように感じられました。
夢は叶わないかもしれない。追いかけた先で、厳しい現実を見ることもあるでしょう。
それでも、やりたいことに向き合える今には、それだけで価値があるのではないか。そんなことを考えました。
(3)思いどおりに輝かなくても、自分だけのひかりになる
私が本作から感じたことは、夜光貝の輝きに重なります。
磨くことで美しい輝きを見せる夜光貝も、磨かなければ、そのひかりは見えてきません。
ただ、磨けば必ず思いどおりになるわけでもない。
途中で壊れてしまうかもしれないし、思っていたような輝きにはならないかもしれない。ようやく輝いたとしても、隣にある貝のほうが、きれいに見えることもあるでしょう。
夢を追いかけることも、それに似ているように思いました。
努力しても、望んだ場所へ届くとは限りません。自分より明らかに才能があると思う人や、まぶしく見える人にも出会うと思います。
でも、自分で磨いた夜光貝には、自分だけの輝きがある。
ほかの誰かと同じでなくても、いちばん強いひかりでなくても、その輝きまでなくなるわけではない。
一生懸命に打ち込んだ時間や、何かを好きだと思った気持ちは、夢が叶わなかったからといって、すべて無意味になるのか
私は、そうではないと思いたくなりました。
そのひかりは自分の中に残り続け、いつか誰かを照らすこともあるかもしれない。
『夜光貝のひかり』は、私にそんなことを感じさせてくれた作品です。
(4)日本に戦争があったことをどうやって伝えていくか
本作品は日本が関わった「戦争」について、後世にどのように伝えていくのかという視点も重要なところだと思います。
私が小学生の頃は、まだ戦時中は成人していた方も存命で、夏になれば生の体験談を学校の集会で聞けた時代でした。
今、私がこの記事を書いている2026年は戦後81年。戦後直後に生まれた方が80歳を超えていて、戦時中に徴兵された方を探して体験談を生で聞くということは凄く難しい時代になりました。
戦争を体験した方から、直接お話を聞ける機会は、これからますます少なくなっていくのでしょう。
映像や手記など、体験を伝えるものは残っていても、その方を前にして話を聞き、問いかけられる時間には限りがあります。
私自身、戦争を経験していないので、自分の体験として語ることはできません。それでも、本作のような物語を通して知り、感じたことを、誰かに伝えることはできるのかもしれない。
書籍だからこそ、次の世代へ手渡せるものもあるのだと思いました。
④こんな方におすすめ
- 奄美大島を舞台にした、夏の物語を読みたい方
- 少年と不思議な少女の、淡く切ない出会いを描く作品が好きな方
- 夢や目標につまずき、少し立ち止まっている方
- 子どもと同じ本を読んで、それぞれの感想を話してみたい方
- 短くても、読後にゆっくり考えられる物語を探している方
夢が叶うかどうかは、最後までわかりません。
それでも、好きなことに打ち込める時間を大切にしたい。誰かと比べてしまう日にも、自分で磨いたひかりまで否定したくない。かつて、自分のひかりを磨きたくても磨くことができない人たちもいたことを思いながら…
奄美の夏を感じながら、そんな気持ちになれた一冊でした。
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