今回は、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』を紹介します。
本作は、仙台で発生する連続放火事件を追う兄弟を通して、家族とは何か、血のつながりとは何かを描いた物語です。
伊坂幸太郎さんらしい独特な会話や、心に残る言葉を楽しめる作品ですが、扱われている題材はタイトルにそぐわないくらいに重い…
血のつながりや血とは何かという重たいテーマをはらみつつ、父が違う兄の泉水と弟の春、過去や血のつながりに縛られるのではなく、重力を超えるように自分たちらしく生きようとする家族の姿が心に残る一冊でした。
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①あらすじ
仙台の街で、連続放火事件が発生します。
遺伝子を研究する会社に勤める兄の泉水と、街の落書きを消す仕事をしている弟の春。
放火現場の近くには、必ずグラフィティアートが描かれていました。
春は、放火事件とグラフィティアートの間に何らかの関係があるのではないかと考え、泉水とともに事件を調べ始めます。
やがて兄弟は、壁に残された言葉と遺伝子の規則に共通点があることに気づきます。
事件の真相へ近づいていく中で明らかになるのは、兄弟と家族が長い間抱えてきた、あまりにも重い過去でした。
②読んだきっかけ
本作を読むのは今回が初めてではなく、久しぶりの再読になります。
再読しようと思ったきっかけは、競馬のオークスでした。
「ジュウリョクピエロ」という名前の馬が出走しており、前哨戦から強いなと感じていた馬だったということや、小説と同じ名前だったことから応援も兼ねて馬券を購入したところ、的中。
オークスに勝ったら読み直そうと思っていた小説の『重力ピエロ』、を久しぶりに読み返してみることにしました。
なかなか独特の雰囲気のある作品でしたが、時間が経ってから再読すると、泉水と春の兄弟関係や両親の愛情について、最初に読んだときとはちがった感想を抱くことになるとは、読み返す前の私はまだ知らない…
③感想・レビュー
(1)血のつながりだけでは決まらない「家族」
本作を読んで最も心に残ったのは、家族を決めるものは何なのかという問いです。
泉水と春は兄弟ですが、二人を取り巻く事情は単純ではありません。
物語では、遺伝子が重要な要素として登場します。
泉水自身も遺伝子を扱う仕事をしているため、人間の性格や行動が、どこまで遺伝によって決まるのかという問題が何度も描かれています。
しかし、この家族を見ていると、人を形づくるものは遺伝子や血のつながりだけではないのだと思えます。
誰と一緒に暮らし、どのような言葉をかけられ、どれだけ大切にされてきたのか。
家族と過ごしてきた時間も、その人をつくる大きな要素なのではないでしょうか。
泉水と春の間には複雑な事情がありますが、二人の会話からは、兄弟として積み重ねてきた時間が感じられます。
大げさに互いへの思いを語るわけではありません。
それでも、二人にしか分からない会話や独特な距離感から、兄弟の強いつながりが伝わってきました。
血がつながっているから家族なのではなく、家族として相手を受け入れ、一緒に生きてきたからこそ家族になる。
本作からは、そんなメッセージを感じました。
(2)神が答えなくても、父親は春を家族として受け入れた
再読の時もそうなのですが特に印象に残っているのは、母親が春を身ごもったときの父親の話です。
父親は、春を産むべきかどうか神に問いかけます。
しかし、神は何も答えてくれなかったといいます。
何も答えがなかったという言葉からは、父親の迷いや不安が感じられます。
それでも父親は、誰かに正解を教えてもらうのではなく、最後は自分自身で春を家族として受け入れることを選びました。
春がどのような経緯で生まれたのかではなく、生まれてくる春自身には何の罪もないと考えたからこその決断なんだなと思いました。
この決断は、簡単にできるものではありません。
母親の苦しみを受け止めながら、自分自身もこれから生まれてくる子どもを自分の息子として育てる。
その覚悟には、血のつながりを超えた愛情があるなと思いました。
父親は、立派な言葉を並べて家族への愛情を説明する人物ではありません。
それでも、その生き方や春への接し方から、春を疑いなく自分の息子として愛してきたことが伝わってきました。
この家族にとって大切なのは、春が誰の遺伝子を受け継いでいるのかではありません。
父親と母親、泉水、そして春が、一緒に家族として過ごしてきた事実なのだと思いました。
(3)重力を超えるように生きるということ
本作のタイトルにある「重力」は、人を地面へ引きつける力だけを表しているのではないと思います。
過去の出来事や血のつながり、消すことのできない記憶。
そうしたものも、人を重く縛りつける重力のような存在です。
春は、自分では選ぶことのできなかった過去を背負っています。
どれだけ前を向こうとしても、自分の生まれに関する事実から完全に逃れることはできません。
しかし、泉水や両親は、春を過去や遺伝子だけで判断しません。
家族が春を信じ、春もまた自分自身の生き方を選ぼうとする。
その姿は、過去という重力に押しつぶされるのではなく、それを飛び越えようとしているように見えました。
本作では深刻な出来事が描かれますが、泉水と春の会話には不思議な軽やかさがあります。
この軽やかさがあるからこそ、重い過去を抱えながらも、それだけに支配されず生きていこうとする二人の強さが伝わってきます。
伊坂幸太郎さんらしい印象的な言葉も多く、重い物語の中に、ふっと心を軽くしてくれる瞬間がありました。
物語を読み終えたとき、「重力ピエロ」というタイトルが強く心に残りました。
(4)思っていた以上に重いテーマ
一方で、本作は性暴力や家族の過去など、かなり重い題材を扱っています。
伊坂幸太郎さんらしい軽快な会話や、兄弟が事件を追うミステリーを想像して読み始めると、その内容の重さに驚くかもしれません。
私自身も、再読してみて思っていた以上に重いテーマを扱った作品だったと感じました。
泉水と春の会話にはユーモアがありますが、物語の根底にある出来事は、簡単に受け流せるものではありません。
登場人物が抱えてきた苦しみを考えると、読むのがつらくなる場面もありました。
また、登場人物たちが選ぶ行動について、すべての読者が納得できるとは限りません。
正しいこととは何か、家族を守るとはどういうことなのか、読後にも考えさせられる部分があります。
ただ、題材が重いからこそ、泉水と春の兄弟関係や、両親が二人に注いできた愛情が、より強く感じられました。
単なる謎解きとしてではなく、家族の物語として読むことで、本作の印象はさらに深いものになると思います。
④こんな方にオススメ
- 家族や兄弟のつながりを描いた小説が好きな方
- 血のつながりとは何かを考えたい方
- 伊坂幸太郎さんらしい独特な会話を楽しみたい方
- ミステリーと家族小説の両方を読みたい方
- 印象に残る言葉の多い作品が好きな方
- 重い過去を抱えながら生きる人々の物語を読みたい方
- 読み終わったあとにも考えが残る作品を探している方
⑤まとめ
連続放火事件の謎を追う兄弟を通して、血のつながりや家族のあり方を描いた『重力ピエロ』。
物語のテーマは思っていた以上に重く、読むのがつらいと感じる場面もありました。
それでも、泉水と春の独特な会話や、春を迷いなく家族として受け入れた両親の姿には、過去や遺伝子だけでは決められない家族の強さが表れています。
家族とは、同じ血が流れている人たちのことではなく、互いを家族として受け入れ、一緒に生きてきた人たちのことなのかもしれません。
過去という重力に縛られながらも、それを飛び越えるように生きようとする家族の姿が心に残る一冊でした。
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