【誰が勇者を殺したか 賢者の章】(駄犬)の感想・レビュー|ゲームなら逃げられる戦いにも、その先がある

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 今回は、『誰が勇者を殺したか 賢者の章』(駄犬)を紹介します。

 本作は、魔法使いソロンが勇者として認められ、一人で魔王討伐の旅に出る物語です。

 賢者の一人旅。

 ゲームであれば、自分の能力に合わせて戦う相手を選び、勝てそうにない魔物からは逃げながら進んでいく。そんなプレイスタイルを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。

 ただ、本作では、魔物から逃げればそれで終わりというわけにはいきません。

 その魔物が村や町を襲えば、そこに暮らす人々が被害を受けることになります。

 自分が生き残るための選択と、誰かを守るための選択。

 その違いに冒険のリアルさを感じるとともに、準備だけでは対応できない出来事を経験し、ソロンが学んで成長していく姿が印象に残る作品でした。

※物語の核心や具体的な結末には触れませんが、シリーズを踏まえた旅の行く末への言及があります。

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①あらすじ

 人との関わりを避けて生きてきた魔法使いソロン。

 ある日、預言者から勇者として認められ、王国からも勇者認定を受けた彼は、気が進まないながらも一人で魔王討伐へ向かうことになる。

 頼りになるのは、自分の知識と魔法、そして事前に整えた準備。

 しかし、実際の旅では、想定していたとおりに物事が進むとは限らない。

 魔物との戦いや、旅先で直面する問題を通して、ソロンは自分の考えだけでは見えていなかったことを知っていく。

 賢者としての知識を持つ彼が、冒険の中で何を経験し、何を学んでいくのかを描いた物語。

②読んだきっかけ

『誰が勇者を殺したか』シリーズのがでるということで楽しみにしていた本作。

 今回は「賢者の章」ということで、ソロンに焦点が当たる物語を読めるのが気になりました。

 1巻ではいいところまでいったみたいな感じで書かれていたものの、失敗に終わるのはわかっている話なのですが…

 とはいえ、本編につながる成功しなかったお話というのはわかるので、ソロンがどのように旅を進め、その中で何を経験するのかを楽しみに読み始めました。

③感想・レビュー

(1)魔物から逃げた先にも、人々の暮らしがある

 本作で特に印象に残ったのは、ソロンの一人旅に感じられるリアルさです。

 ゲームでも、仲間を連れず、一人だけで冒険を進めるプレイスタイルがあります。

 自分の能力や使える手段を考えながら、どう攻略するかを工夫する。ソロンの旅にも、それに通じる面白さを感じました。

 ただ、ゲームでは自然に選ぶ「逃げる」という行動にも、この世界では別の意味があります。

 勝てそうにない魔物から逃げることは、自分が生き残るためには合理的な判断です。

 しかし、その魔物が残っていれば、近くの村や町を襲い、そこに暮らす人々が被害を受けるかもしれません。

 自分にとっては避けられた戦いでも、誰かにとっては避けられない危険になる。

 ゲームをしているときには、そこまで考えずに逃げていたなと思いました。

 冒険者にとっては通り過ぎる場所でも、そこを生活の場にしている人がいます。魔物も、戦闘が終わったからといって、その世界から消えるわけではありません。

自分の冒険の外側にも、誰かの生活が続いている。

 そのことを感じさせてくれるところが、本シリーズのおもしろいところでもあり、本作の面白さでした。

 魔物との戦いを、単に経験値を得たり先へ進んだりするためのものとして描かず、人々の暮らしと結びつけている点が印象に残りました。

(2)賢者であっても、旅に出なければ学べないことがある

 もう一つよかったのは、ソロンが事前に準備したことが、必ずしもうまくいかないところです。

 知識があり、先のことを考えて備えていても、実際に旅へ出れば想定外の出来事が起こります。

 考えていた方法が、そのまま通用するとは限りません。

 そのたびに、ソロンが経験したことをどう受け止め、次の行動につなげていくのか。そこを読むのが面白かったです。

 準備が間違っていたから、すべてが無駄になるわけではありません。

 実際に試してみたことで、足りなかったものや、考慮できていなかったことがわかる。その経験が、次の判断につながっていきます。

 知識として知っていることと、自分で経験して理解することには違いがある。

 賢者であるソロンにも、旅に出なければ学べないことがあるのだと感じました。

 最初から何でも見通して、準備したとおりに問題を解決していくのであれば、ここまで彼の歩みに引き込まれなかったかもしれません。

 うまくいかないことがあり、その中で考え方や行動が変わっていく。

 賢者という肩書きから想像する完成された人物像よりも、経験を通して成長していくソロンの姿に魅力を感じました。

(3)行く末を知っているからこそ、成長を見守るのがつらい

 一方で、作品自体に大きな不満はありませんでしたが、読んでいてつらく感じるところはありました。

 それは、シリーズを読んでいると、ソロンの旅が明るい結末へ向かうものではないと意識してしまうことです。

 ソロンが経験を積み、学び、成長していく。

 その姿を見ていると、このまま旅を乗り越えてほしいと思うのですが、同時に、彼を待つ行く末が頭をよぎります。

 普通の冒険物語であれば、失敗から学んだことが、最後には大きな成果につながるのではないかと期待できます。

 しかし、本作では、その期待だけで安心して読み進めることができませんでした。

 成長していることは伝わってくる。

 それでも、その成長によって何もかもがうまくいくとは思えない。

 その感覚が、ソロンの旅を見守るうえでの切なさにつながっていました。

こ れは展開への不満というより、行く末を意識しながら読まざるを得ないことのつらさです。

 ソロンが学んで変わっていく姿がよかったからこそ、なおさら、その先を考えてしまう作品でした。

④こんな方にオススメ

  • 『誰が勇者を殺したか』シリーズを読んできた方
  • 賢者ソロンについて、もっと知りたい方
  • RPGの一人旅や、工夫しながら進める冒険が好きな方
  • ファンタジー世界の人々の暮らしにも関心がある方
  • 知識のある人物が、経験を通して成長する物語を読みたい方
  • 切なさを感じる冒険物語が好きな方

 『誰が勇者を殺したか 賢者の章』は、ソロンの一人旅を通して、冒険の面白さと、その世界で生きることの厳しさを感じられる作品でした。

 ゲームなら、勝てない魔物から逃げて先へ進むことができます。

 しかし、その魔物の近くで暮らす人がいると考えれば、逃げるという判断も簡単ではなくなります。

 また、知識を持つソロンが、準備だけでは対応できない出来事を経験し、学んでいく姿もよかったです。

 先を知っているからこそのつらさはありますが、それでも、彼が道中で何を知り、どう成長していくのかを見届けたくなりました。

 ゲームで一人旅を楽しんだことがある方や、ソロンという人物をより深く知りたい方に読んでほしい一冊です。

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