今回は、『白紙を歩く』(鯨井あめ)を紹介します。
本作は、陸上部の長距離天才ランナーと小説家を目指す女子高生、異なる夢を追いかけてきた二人の出会いを描いた青春小説です。
走ることと書くこと。
向き合っているものは違っていても、思うような結果が出ない焦りや、自分が続けてきたことに意味があるのか分からなくなる苦しさは、二人に共通しています。そんな二人が出会い悩んでいく。
挫折を経験したとき、これまで追い続けてきた夢を諦めるのか。それとも、もう一度歩き出すのか。
夢を持つことの苦しさと、それでも夢を続ける意味について考えさせられる作品でした。
![]() | 新品価格 |
①あらすじ
陸上部のエースとして走り続けてきた定本風香は、怪我をきっかけに自分が走る意味を見失っていた。
一方、小説家を目指して作品を書き続けている明戸類も、自分の書いた文章に自信を持てず、思うように前へ進めずにいた。
走ることに悩む少女と、書くことに悩む少女。
それまで接点のなかった二人は、ある出来事をきっかけに出会う。
正反対に見える二人だが、それぞれが抱える迷いや焦りに触れ、少しずつ影響を与え合っていく。
自分にとって夢とは何なのか。そして、結果が出なくても続けることに意味はあるのか。
人生の分岐点に立った二人が、自分の進む道を探していく物語。
②読んだきっかけ
ふと外出先で立ち寄った個人の書店さんに入って発見した本作品。
丁度、読んでいた本が読了したタイミングで、次の本を探していたところ、偶然見つけた書店に入って見つけたのですが…
読んだことがない作品があまりなく、単行本も少ないという状況で、タイトルだけを見て、読んだことがないというだけで購入。
こういう本との出会いもたまには良いですよね?
と、誰に言っているのかよくわからない感じで購入しました。
③感想・レビュー
(1)夢を見失った高校生の二人の悩みや焦りがリアルに描かれている
本作で特に印象に残ったのは、夢に向かって努力してきた二人が抱える悩みや焦りです。
風香は陸上部のエースとして結果を残してきました。
しかし、怪我によって思うように走れなくなり、全国大会の出場も絶たれ、それまで当たり前のように続けてきた「走る」という行為の意味を見失ってしまいます。
好きだから走っていたのか。
結果を出せるから走っていたのか。
周囲から期待されているから走っていたのか。
これまで夢中で取り組んできたからこそ、それができなくなったとき、自分の中に大きな空白が生まれてしまう。その苦しさが伝わってきました。
小説家を目指して書き続ける類も、同じように悩んでいます。
書きたいという気持ちはありながらも、自分の作品に自信が持てず、努力を続けた先に何があるのか分からない。
夢に向かって進んでいるはずなのに、本当に前へ進めているのか分からなくなる焦りは、何かを目指した経験がある私にも重なる部分がありました。
二人に共通しているのは、一生懸命に取り組んできたものだからこそ、簡単には諦められないということ。風香にしても、走る意味を本に求めたりするほどに、「走ること」そのものを諦められないのだなと感じます。
夢を追うことは、いつも前向きで楽しいものではありません。
むしろ、結果が出ない苦しさや、周囲と比べてしまう焦り、自分には才能がないのではないかという不安がつきまとうもの。
本作では、そうした夢を追い続ける中で生まれる感情が、きれいごとだけではなく丁寧に描かれていると感じました。
(2)挫折しても、それまでの時間が無駄になるわけではない
目標を見失ったときや、これまで続けてきたことができなくなったとき、自分の前には何も書かれていない白紙だけが残ったように感じることがあります。
これから何をすればよいのか分からない。
どこへ向かえばよいのかも分からない。
その状態は不安ですが、白紙であるからこそ、そこから新しい道を選ぶこともできる。世界はもしかすると白紙の方が思い切りなんでもできることもあるし。
挫折したからといって、それまで積み重ねてきた努力がすべて無駄になるわけではないし。
夢を追いかけた時間や、その中で感じた喜びもあれば苦しさもあり、それらは自分の中に残り続けます。
二人が出会い、互いの言葉や姿から影響を受けることで、少しずつ自分と向き合い直していくところが本作の魅力でした。
誰かが簡単に答えを教えてくれるわけでもないし、正しい答えなんてそもそもない。
それでも、自分とは違うものに夢中になっている人と出会うことで、これまでとは別の角度から自分自身を見ることもできる。
夢を続けることだけが正解ではなく、諦めることが必ずしも失敗というわけでもない。
大切なのは、迷いながらでも自分で納得できる道を探すことなのだと本作からは感じました。
(3)高校生らしい青さと、心情の捉えにくさも
一方で、二人が悩み続ける場面が多いため、物語の進み方を少しゆっくりに感じるところもありました。
夢や才能、自分の存在意義といった答えの出にくい問題を扱っているため、同じ場所を行ったり来たりするように見える場面もあります。
また、登場人物たちの心情についても、少し捉えにくい部分がありました。
それぞれが多くの悩みを抱えていることは伝わってくるし、登場する大人たちも悩みながら生きてきたというのもわかるのですが、なぜその言葉や行動に至ったのか、気持ちをつかみきれないところがあります。
また、良くも悪くも高校生らしい青さを感じる作品でした。
自分の悩みが世界のすべてであるかのように考えてしまったり、周囲の言葉を素直に受け止められなかったりする姿には、少しもどかしさもあります。
ただ、その不器用さや視野の狭さも、高校生という年代のリアルな部分なのかもしれない。
今の私の40代の視点から見れば別の選択肢があるように思えても、当人にとっては走ることや書くことが、自分の存在そのものになっていて、それが呪縛みたいになっているなと思いました。
そのため、登場人物の心情を理解しにくいと感じながらも、迷いや苦しさそのものには現実味があると思いました。
④こんな方にオススメ
- 夢や目標に向かって努力している方
- 挫折から立ち直っていく物語が好きな方
- 進路や将来について悩んでいる方
- 登場人物の心の揺れを描いた青春小説が好きな方
- 才能と努力の関係について考えてみたい方
- 爽やかさだけではない青春物語を読みたい方
走る意味を見失った定本風香と、書き続ける意味に悩む明戸類。
『白紙を歩く』は、二人の出会いを通して、夢を追い続けることの苦しさと、挫折して白紙を迷っても再び歩き出せることを描いた物語でした。
悩む場面がやや長く、登場人物たちの心情を捉えにくいところはありましたが、その迷いや不器用さも含めて、高校生らしい青春を描いた作品だと思います。
前述したように夢を見失ってしまったとき、これまで積み重ねてきたものまで消えてしまうわけではありません。
たとえ目の前が白紙になったとしても、そこには新しい道を書き始めることができる。
夢を追いかけて挫折した経験がある方や、夢を続ける意味について悩んでいる方に読んでほしい一冊です。
↓【白紙を歩く】をチェックする
![]() | 新品価格 |



コメントを残す