小さな違和感が思いがけない真相へ…【倫敦スコーンの謎】(米澤穂信)の感想・レビュー

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 今回は、米澤穂信さんの『倫敦スコーンの謎』を紹介します。

 本作は、小鳩常悟朗と小佐内ゆきが身近な謎に向き合う〈小市民〉シリーズの短編集で、季節限定シリーズである本編からは外れたシリーズでおそらくこれが最終巻になるのかなと思われます。

 シリーズを通じてそうですが、何気ない日常の中で見つけた小さな違和感が、二人の推理によって思いがけない真相へとつながっていきます。

 大きな事件が起こるわけではないのに、先が気になってしまう。そんな〈小市民〉シリーズらしい魅力を味わえる一冊でした。

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②あらすじ 

 「なあ常悟朗。お前に頼んでいいことなのかどうかわからないんだが……小佐内を紹介してくれないか?」

 堂島健吾曰く、かつて絵の謎を解いた(ことになっている)小佐内さんに、もう一度知恵を借りたいのだという。

 ──美術家の縞大我が、サンフランシスコ・ビエンナーレの黒熊賞を受賞した。

 健吾は地元のテレビ局に頼まれ学内を捜索、彼の在校時代の作品を発見するが、その作品は模写でありながら展覧会に出品された事実も掘り起こしてしまったのだ。

 果たしてこの作品は盗作か否か? 小市民を目指す小鳩君と小佐内さんの謎解きの日々。

※Amazonの商品ページより引用しております。

②読んだきっかけ

 これまで、〈小市民〉シリーズを全巻読んできたこともあり、新作が刊行されたと知って手に取りました。

 正直、前作がラストだと思っていたので、まさか最終巻から1年で出てくるとは…

 『巴里マカロンの謎』に続く作品集ということで、前回もまぁまぁビターな作品だったので、今回もビターなのか?と思いながら手に取りました。

 今回も、どのような日常の謎に二人が巻き込まれるのか、期待しながら読み始めました。

③感想・レビュー

(1)ビターな日常が思いがけない方向につながっていく…

 本作の魅力は、日常の中にある小さな違和感が、思いがけない真相へとつながっていくところです。そして、相変わらずビターなお菓子の謎というのも巴里マカロンと同様の展開かなと思いました。

 私の中で最も印象に残ったのが表題作の「倫敦スコーンの謎」。

 調理実習でレシピどおりに作ったはずのスコーンが、なぜうまく焼けなかったのか。

 起きていることだけを見れば、料理のちょっとした失敗にすぎないはず。

 しかし、小佐内さんが感じた違和感をもとに小鳩君が考えを巡らせていくと、単なる失敗では片づけられない事情が少しずつ見えてきます。

 「どうしてスコーンがうまく焼けなかったのか」

 という小さな疑問から、そこにいた人たちの行動や思惑まで明らかになっていく展開が特に面白かったなと思いました。

 私たちは普段、身近で起きた小さな出来事を、偶然や失敗として簡単に見過ごしているのかもしれません。

 そのわずかな違和感を拾い上げ、さまざまな可能性を考えながら真相へ近づいていくところに、日常の謎を扱ったミステリーならではの面白さがありました。

 小鳩君と小佐内さんの掛け合いも、シリーズの大きな魅力です。

 二人は互いの性格や考え方をよく理解しており、何気ない会話の中から謎解きが進んでいきます。

 積極的に事件へ関わりたくないと言いながらも、気になることを放っておけない小鳩君。そして、控えめに見えながら独特の鋭さを持っている小佐内さん。

 二人が「小市民」であろうとしながら、結局は謎に向き合ってしまう姿も相変わらずでした。結局彼らは小市民にはなれないのか…

 短編として読みやすいだけでなく、真相が明らかになったあとにビターな部分や引っかかりが残るところも、〈小市民〉シリーズらしいと思います。

 すべてが気持ちよく解決するわけではありません。

 謎を解くことで、それまで見えなかった誰かの感情や事情まで見えてしまう。その余韻も含めて楽しめる作品でした。

(2)以前よりも「高校生らしくなさ」が際立っているような気も

 一方で、シリーズを初めて読む方には、小鳩君と小佐内さんの関係が少し分かりにくいかもしれません。

 二人は恋人同士というわけではなく、お互いが平穏な小市民生活を送るために「互恵関係」を結んでいます。

 それぞれがなぜ小市民を目指しているのか、二人がどのような性格なのかを知らないまま読むと、その距離感や会話の意味をつかみにくい部分がありそうです。

 また、前作を読んでから時間が経ってしまった影響もあると思いますが、今回は二人の高校生らしくなさが以前よりも際立っているように感じました。

 物事の捉え方や会話が非常に落ち着いており、日常のちょっとしたしぐさや考え方が、大人びすぎているというか背伸びしている高校生感があまり感じられないというか…

 もちろん、その頭の回転の速さや独特な会話こそがシリーズの魅力だとも思うので、それが悪いというわけではないのですが…

 ただ、久しぶりに読むと「本当に高校生なのだろうか」と感じる場面もあったなと思いました。

④こんな方にオススメ

  • 日常の中にある小さな謎を扱った作品が好きな方
  • 派手な事件よりも、論理的な謎解きを楽しみたい方
  • 小鳩君と小佐内さんの独特な掛け合いが好きな方
  • 短編で読みやすいミステリーを探している方
  • 読み終わったあとに余韻が残る作品が好きな方
  • 〈小市民〉シリーズをこれまで読んできた方

小さな違和感から始まった謎が、人の行動や感情を浮かび上がらせていく『倫敦スコーンの謎』。

表題作をはじめ、日常の謎を解く面白さと、小鳩君と小佐内さんらしい会話を楽しめる一冊でした。

何気ない出来事の裏側にある「なぜ」を考えるのが好きな方には、ぜひ読んでほしい作品です。

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