【ババヤガの夜】(王谷晶)の感想・レビュー|愛でも恋でも友情でもない。暴力と疾走感の先にある二人の関係

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 今回は『ババヤガの夜』(王谷晶)を紹介いたします。

 ダガー賞を受賞した話題作。そう聞いても、最初はそこまで読む気になっていませんでした。

 そもそも、その賞がどれほどすごいのかも、私にはよくわからないし、タイトルからも内容が想像できず、ひとまず買って積んでいた一冊です。

 ところが、読んでみたら、めちゃくちゃ面白かった。

 バイオレンスなのに、ページをめくるスピードが止まらない。二人の女性の関係が気になり、ミステリーの部分ではしっかり騙される。話題作だからと少し斜に構えていた自分に、読んでから言いなさいと思った作品でした。

①あらすじ

 暴力を唯一の趣味とする新道依子は、その腕っぷしを買われ、暴力団会長の一人娘を護衛することになります。

 ヤクザの世界に関わることになった依子と、会長の娘。立場の異なる二人の間に生まれる関係は、簡単な言葉では説明できません。

 激しい暴力とともに物語が進む、二人の女性を描いたハードボイルド小説です。

②読んだきっかけ

 きっかけは、本作の英訳版が2025年のダガー賞翻訳部門を受賞し、日本人作家として初の快挙となったニュースでした。

 Xのタイムラインでも話題になっていましたが、正直、その賞のすごさがよくわからず、タイトルを見ても、すぐに読みたいという気持ちにはなっていませんでした。

 とはいえ、話題作となると気になるのが、ミーハーな私。

 どこかのタイミングでは読みたくなるだろうと、書店で見かけたときに購入。いつでも読めるように準備していたのですが、まさか2週間ほどで読みたくなるとは…

 積読も役に立つものだなと思いました(笑)。

③感想・レビュー

(1)マフィアではなくヤクザです。暴力と疾走感が心地よい

 イギリスの文学賞を受賞し、タイトルは『ババヤガの夜』(ちなみに、わたしはババヤガを3回に1回くらいはババガヤの夜と言い間違えます)。

 イギリスの文学賞を受賞と聞いたので、なんとなく海外の物語を想像して、ビリーとかジェシカとかが登場しそうな雰囲気を感じていたのですが、出てくるのは新宿のヤクザ。そして、めちゃくちゃ喧嘩の強い女性です。

 何度でも言います。マフィアではなくヤクザです。

 そんな私の勝手なイメージはさておき、本作はとにかく読み心地抜群!!読んでいる時のスピード感が心地よい作品です。

 暴力描写は激しいのですが、読んでいると「痛快」という言葉も浮かんできます。依子の強さと物語の勢いに引っ張られ、どんどん先を読みたくなる。

 依子はヤクザの組織に関わらされ、その仕事もすることになります。それでも、自分自身を見失わずに、自分を貫き通す強さと物理的な強さも相まって、ヒーロー感が凄く出ているなと感じました。

(2)愛でも恋でも友情でもない。二人の関係を何と呼ぶのか

 バイオレンスと疾走感を楽しみながらも、気になったのが二人の女性の関係です。

 愛なのか、恋なのか、それとも友情なのか。

 どれかひとつの言葉に当てはめようとしても、どうもしっくりこない。この二人の関係を何と呼べばよいのだろうと、考えたくなりました。

 自由とは何か。性別や立場によって、人はどのように縛られるのか。そうしたことも読み取れる作品だと思います。

 ただ、そういったテーマがあるからといって、堅苦しい読み心地ではありません。

 まずは、依子たちの物語を追うことそのものが面白い。そのうえで、二人の関係や生き方について考える余地が残されている。

 ヤクザの娘は鳥かごの中の鳥なのか。

 鳥かごの中の鳥は鳥かごから出たいとは思わないのか?鳥かごから出ることができて広い世界に出たら幸せになれるのか?

 難しく考えながら読むこともできるし、勢いのあるエンタメとして楽しむこともできる。その読み方を、読者に委ねてくれているように感じました。

(3)勢いに乗って読んでいたら、ミステリーでもしっかり騙された

 本作には、ミステリーとしての面白さもあります。

 私は暴力と疾走感に引っ張られて読み進めていたのですが、そちらの部分でも、しっかり騙されました(笑)。

 詳しく書くと、これから読む方の楽しみを減らしてしまうので控えます。ただ、喧嘩の強い女性が暴れる物語としてだけ読んでいると、それだけでは終わらない面白さが待っています。

 読み始める前は、「何かよく知らない賞を取って、世間が騒いでいる作品でしょ?」くらいに思っていた私をぶん殴ってやりたいくらいに(笑)

 読み終えた今は、そんなふうに思っていてすみません、めちゃくちゃ面白かったです、と言いたいです。

 受賞したから読む価値があるというよりも、読んでみたら、自分にとって面白い作品だった。私には、それが一番大きかったと思います。

④こんな方にオススメ

  • 激しい暴力描写のある、勢いのよい物語を楽しみたい方
  • 喧嘩の強い女性が登場するハードボイルド小説を読みたい方
  • 愛や友情という言葉では説明しきれない関係が気になる方
  • ミステリーとしての驚きも楽しみたい方
  • 話題作と聞くと、少し斜に構えてしまう方

 暴力描写が激しいので、そこは好みが分かれると思います。

 それでも、依子の強さと物語の疾走感、そして簡単には名前をつけられない二人の関係には、先を読ませるパワーがあふれていました。

 難しいテーマを考えるのもよし、まずは勢いに乗って読むのもよし。そして、ミステリーの部分では、私のように騙されてみるのもよし。

 話題になっていることは知っているけれど、まだ手に取っていない。そんな方にも、一度読んでみてほしい一冊です。

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