今回は、『月夜行路』(秋吉理香子)を紹介します。
夫との関係に悩む主婦と、文学に詳しいバーのママ。思いがけず出会った二人が、大阪で文学ゆかりの地を巡りながら、事件の謎と自分自身に向き合っていくミステリーです。
文学の知識を使った推理も面白いのですが、私が特に心を動かされたのは、自分の人生を見つめ直すきっかけになる言葉でした。
誰かの生き方を羨ましく思うことはあっても、自分の生き方が誰かの憧れになっているかもしれないとは、なかなか考えません。
本作は、そんな私に「もしかしたら、私は誰かの夢なのかもしれない」と思わせてくれた作品です。
※この記事では、事件の真相や結末に触れるネタバレを避けて感想をまとめています。
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①あらすじ
四十四歳の専業主婦・涼子は、関係が冷え切った夫の浮気を疑っていた。
誕生日の前夜、夫が仕事を理由にプレゼント?をもって出かけたことで、涼子は浮気相手がいると思われる店へ向かう。しかし、入ったのは同じビルにある別のバーだった。
そこで出会ったのが、ママのルナ。
ルナと話すうちに、涼子は大学時代に付き合っていた男性のことを語り始める。そして、彼に会いたいという気持ちから、思い立ってルナとともに大阪へ向かうことに。
文学ゆかりの地を巡り、行く先々で事件に遭遇する二人。ルナは豊富な文学の知識と鋭い洞察力を使って、謎を解きほぐしていく。
元恋人を探す旅の中で、涼子は自分の過去と今の生活を見つめ直していく。
②読んだきっかけ
秋吉理香子先生の作品では、以前に『暗黒女子』を読んだことがありました。
そのため、私の中ではダークな物語や、読後に苦いものが残るミステリーを書く作家さんというイメージが強かったです。
そんな秋吉先生の作品の『月夜行路』を知ったのは、たまたま運転していた時にラジオで紹介されたときでした。
運転中で、ところどころしか聞こえなかったのですが、ルナママがいわゆるオカマ(この表現、今の時代大丈夫かと思いつつ、適切な言葉が思いつかなったので、この表現でいきます)ということと、40代と年齢が近い主婦が主人公、大阪の文学を巡る旅?、ミステリーとなかなか濃いなと思いつつ、これは面白そうだなと思って書店に行ってみつけたので購入。
その時私の2023年で一押しになるほどストーリーにはまるほどの破壊力のある作品であることを私は知らない…
③感想・レビュー
(1)文学の知識で謎を解く、ルナの魅力
本作でまず惹かれたのは、ルナの豊富な文学の知識と、鋭い洞察力です。
独特のキャラでコミュ力の高いルナママが人の話から事情を読み取り、文学作品の知識を手がかりにして謎を解いていく。その姿には、頼もしさがあります。
事件の規模が大きいというより、旅の途中で出会う謎を楽しむ作品ですが、文学が推理につながるところが面白かったです。
ただ事件が次々に起きるだけではなく、文学ゆかりの場所を巡る旅と謎解きが結びついているので、私は物語の流れにも入り込みやすく感じました。
そして、ルナの魅力は推理力だけではありません。
涼子の話を受け止めながら、彼女が違う角度から自分の人生を見られるような言葉をかける。その言葉が、読んでいる私にも染みました。
謎が解ける楽しさと、人の言葉に心がほどける感覚。その両方を味わえるところが、本作の良さだと思います。
(2)大阪に住んでいても知らなかった、文学ゆかりの場所
私は大阪に住んでいますが、数々の文豪にゆかりのある場所が大阪にあることを、これまであまり意識していませんでした。
本作を読むと、見慣れているはずの大阪に、まだ知らない一面があることに気づきます。
えっ!?谷町のあのあたりって文豪ゆかりの地なの?等々、大阪に住んでても知らないことって多いのだなと思いました。
作中に登場する文学作品も、私には未読のものがありました。それでも、ルナの話や旅の様子に触れていると、「その場所へ行ってみたい」「作品も読んでみようかな」という気持ちになります。
昔の文学作品には、少し難しそうな印象があります。けれど、場所や物語と結びつくことで、ぐっと身近に感じられました。
大阪という街と文学への愛情が伝わってきて、読み終えたあとには、普段の街歩きも少し違って見えそうです。
(3)私の人生も、誰かの夢なのかもしれない
本作を読んで、最も心に残ったのは、自分の人生を見る角度が変わったことです。
私は、自分の今の生活に満足できなかったり、夢を実現した人を羨ましく思ったりすることがあります。単純にお金持ちになりたいとか、仕事で成功した人を妬ましいくらいに羨ましく思ったり。
「あの人のようになれたら」「違う道を選んでいたら」と考えることもあります。
けれど、その羨ましく見える人にも、手に入れられなかったものや、憧れている生活があるのかもしれません。
地位や名誉を得た人が、それらを気にせず過ごせる生活に憧れることもあるでしょう。誰かと結ばれた人が、別の人生を思い浮かべることもあるかもしれません。
そう考えると、
自分では物足りなく感じている今の暮らしも、誰かから見れば羨ましい生き方なのかもしれない。
「もしかしたら、私は誰かの夢なのかもしれない」
これは作品から受け取った、私自身の気づきです。
もちろん、そう思ったからといって、今の悩みがなくなるわけではありません。それでも、自分の人生を足りないものばかりで見なくてもよいのだと感じました。
そして、私が羨ましく思う人の幸せも、そのまま続いてほしいと願えるようになれたらよいなと思いました。
いつまでも忘れられない初恋の人が、今もどこかで幸せであってほしいと願うように。
自分の人生にも、誰かの人生にも、少し優しい目を向けたくなる。そんな余韻が残りました。
④こんな方にオススメ
- 文学の知識を使った謎解きを楽しみたい方
- 大阪の街や文学ゆかりの場所に興味がある方
- 魅力的な登場人物の会話を楽しみたい方
- 誰かの人生を羨ましく感じることがある方
- 自分の今の生活を、違う角度から見つめ直したい方
- 秋吉理香子さんの温かい作風にも触れてみたい方
『月夜行路』は、文学散歩と謎解きを楽しみながら、自分の人生についても考えられる作品でした。
私にとっては、ルナの言葉と、「自分の人生も誰かの憧れかもしれない」という気づきが、特に心に残っています。
誰かの生き方を羨ましく思ってしまうときに、もう一度手に取りたくなる一冊です。
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※本記事は、以前ブクログに投稿した感想をもとに、構成と文章を見直しています。



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