【梅の実るまで 茅野淳之介幕末日乗】(高瀬乃一)の感想・レビュー

①あらすじ

 お役目がなく学問で身を立てることもできない淳之介は、幼なじみの同心から頼まれたある娘の見張りをきっかけに、攘夷の渦中へと呑み込まれてゆく。徳川の世しか知らないながらも、武士という身分に疑問を抱き始めた青年がようやく見つけた、次代につながる道とは。生へのひたむきな問いが胸を打つ、人間味溢れる時代小説。

※Amazonの商品ページより抜粋しております

②読んだきっかけ

 いつもどおり、書店に並んでいて、ふと目に留まったため。

 時代小説系が読みたいなと思っていて、幕末のお話というところで、どんな話なのだろう?と思いました。

 「大切な人を守るとき、私は刀を選ばない。」

 この帯の文を読んだ時、刀を使わずに幕末の世を生きる志士の方ですか?と思ったのは内緒です。

③感想・レビュー

 幕末というと、映画、舞台、ドラマ、コミックに小説とか数多くの作品を思い浮かべるかもしれません。

 また、この幕末から明治維新というのは登場人物の立場が変われば様々な価値観もあるはずなのですが、どの立場に立っても、日本という国を異国から守るためにそれこそまさに命を懸けていたということが伝わってくる時なんだろなと思います。

 映画やドラマなどの影響か、この時代は激しい時代でもあり、どこか華やかなイメージがあるかもしれません。

 しかし、本作品は、その華やかさとは対極にある、江戸で役目もない、私塾を開いてなんとか生活を食いつないでいる武士の茅野淳之介が主人公となります。

 つまり、本作品は歴史上の登場人物でもなく、自ら志士になるとか国を守りたいという野望があるわけでもないごく平凡な武士が、時代の流れである尊王攘夷運動にある日突然、いきなり巻き込まれる。しかも、それは日銭を稼ぐため。

 というところが、今まで私が読んだ中で初めての傾向の作品だなと思いました。

 じゃあ、華やかではないからつまらないのか?というとそうではなく、江戸で黒船騒ぎ以降の江戸で暮らす武士らしさというのが、なんとも言えない味わい深さを感じさせてくれます。

そして、まず、気づかされます。

 幕末の華やかな舞台だと思っていた時流は江戸に住む人々の生活を脅かしながら、むしろ物騒な中成り立っていたんだなと。

 外国船が入港してきて、小判の価値は下がる、輸出で物価は上がる、水戸藩浪士が桜田門外の変で井伊直弼を襲って以降、尊王だの攘夷だのという志士が意見の合わないお偉いさんの命を狙ったり、逆に志士を捕まえようとするし。また、歴史はしってはいるものの、東征軍(討幕派)が江戸を火の海にするかもしれないという緊張感のある世の中で暮らすというのは、当時の江戸の人々は相当怖かったのではないかと思いました。

 そんな物騒な世の中で、暮らしている登場人物たちを通して、私は、

 なぜ働くのか

 ということを考えさせれました。

 本作品で思ったこととは明後日の方向のことを思ったかもしれないなと思いましたが、序盤に本作品の登場人物が言ったことが読後の今でも残っています。

 毎日働くのはお腹いっぱいになるためになるため

 今の私は、仕事で少し嫌なことがあると凹むし、仕事は楽しくないし、残業あって辛いし、なんで仕事してるんだろうか?もうやめたいって思ったことも数えられないくらいにあります。

 そういう時に思うんですよね。

 今の仕事は自分に合ってないのではないか、もっと楽でよい仕事があるんじゃないのか?

 と。

 その時、考えてることってただその仕事がやりたくないでけで、今日お腹いっぱい食べるんだとか、そんなことをあんまり考えることがないなと思いました。

 でも、本来は、働くということは食べるためや生きていくためにすることだと、登場人物たちを通じて感じました。

 皆、明日はどうなるかわからない。

 夜道を歩いてたら襲われるかもしれないし、明日は仕えるべき主人がいなくなるかもしれないし、起きたら町は火の海かもしれない。

 でも、粛々と毎日働きながら、自分の役目を全うしながら暮らしている。

 地味かもしれませんが、それがなぜか胸を打つ。

 そんな作品だなと思いました。

④こんな人にオススメ

・幕末の江戸の町人の物語に心を惹かれる方
・幕末の歴史が好きな方
・幕末の江戸の町人の生活から気づきを得たい方


 

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