【エレガンス】(石川智健)の感想・レビュー|戦時下の空襲が始まった東京で自分らしく生きることとは?

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 今回は、石川智健先生の『エレガンス』を紹介します。

 戦争中の女性と聞くと、私が思い浮かべるのは、もんぺ姿や学生服姿。ドラマや映画、戦争を舞台にしたアニメなどの映像作品のイメージがあるせいか大体の方はこういうイメージなのではないかと思います。

 けれど、本作に登場するのは、髪にパーマをかけ、洋装を身にまとい、美しくあろうとする女性たち。

 明日さえわからない状況でも、おしゃれをしたい。自分らしく生きていたい。

 その姿を追いながら、空襲下の東京で暮らす人々の日常に触れ、戦争によって奪われるものの大きさを感じた作品でした。

 戦時下の連続不審死を追うミステリーとして手に取ったのですが、読み終えた私の中には、事件の謎以上に残ったものがある作品です。

※事件の真相や具体的な結末には触れずに、感想をまとめています。

エレガンス

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①あらすじ

 1945年1月、空襲にさらされる東京。

 警視庁の写真室に勤務する石川光陽は、戦禍の街並みや事件現場を写真に収めていた。

 そんな中、洋装姿の女性4人が相次いで首を吊って亡くなる。自殺とみられていた事件だったが、光陽は内務省防犯課の吉川澄一とともに再捜査に当たることになる。

 女性たちの死には、どのようなつながりがあるのか。

 激しさを増す空襲の中、捜査を進める2人は、戦時下でも洋装を貫く女性たちの生き方に触れていく。

 連続不審死の謎とともに、厳しい統制の中でも自分らしくあろうとする人々を描いた物語です。

②読んだきっかけ

 『ゾンビ3.0』以来、石川先生の新作を読んでいる私。

 今回も発売前から新刊情報を逐一確認し、全裸待機で待っておりました!!

 ……というわけではありません(笑)

 きっかけは、私のAmazonアソシエイトに、発送前の未確定報酬が出ていたことでした。

 何が売れたんだろう?と思って確認すると、石川先生の新刊らしきタイトルが。

 そこで初めて、新作が出ることを知りました。自分のブログ経由の予約に、新刊情報を教えてもらうという、なかなか珍しい出会い方です(笑)

 内容を見てみると、戦時下の東京で起きた女性たちの不審死を追うミステリーとのこと。

 空襲下の東京と、連続不審死事件。

 私にはあまり読んだ覚えのない組み合わせで、どんな物語になるのだろうと気になり、手に取りました。

③感想・レビュー

(1)戦時下の歴史として知っていた東京がそこにある感覚

 本作を読んで強く感じたのは、登場人物と一緒に、戦時下の東京にいるような感覚でした。

 空襲で夜もゆっくり眠れない。爆弾や焼夷弾によって人が亡くなり、道端には遺体が残されている。

 東京が空襲を受けたことは、もちろん知っています。

 ただ、歴史の教科書で出来事を知ることと、そこで暮らす人の視点から街を見ることには、大きな違いがあるのだと思いました。

 私が小学生だったころ、学校などで、戦地から帰ってきた方や空襲を経験した方のお話を聞く機会がありました。

 当時聞いた言葉をすべて覚えているわけではありません。それでも、実際に経験した人が目の前で語ってくださったことは、今も記憶に残っています。

 そのころから、さらに長い時間が経った今、本作を読んでいると、過去の出来事として知っていた戦争が、人々が眠り、働き、明日を迎えようとしていた日常の中に入ってきます。

 毎日が怖いし、つらい。空襲に怯える日々が確かに前提としてこの作品の中にある。

 戦争を経験していない私が、当時の暮らしを想像するための大切な読書体験になりました。

(2)明日もわからない中で、事件を捜査する警察官たち

 本作品で印象に残ったのが、戦時下でも職務を遂行する警察官の姿です。

 空襲がある。身近な人を失う。自分自身も、明日どうなるかわからない。

 それでも、事件が起きれば目の前の事件を調べ、亡くなった人に何が起きたのかを確かめようとする。

 当たり前のことなのに全く想像できていなかったのですが、戦争中にも犯罪は起きるし、それを捜査する人もいたはずです。

 ただ、私は戦時中の警察官がどのように働いていたのか、具体的に想像したことがほとんどありませんでした。

 この感覚は、東日本大震災直後の被災地で事件を追う警察官を描いた『逃亡者は北へ向かう』(柚月裕子)を読んだときにも覚えました。

 大きな災害や戦争の中でも、職務を遂行する人がいる

 その姿を物語の中で見ると、歴史や報道に触れるだけでは気づかなかった、人々の営みが見えてくるように感じます。

(3)戦時下でも、おしゃれをしたい。自分らしくありたい

 そして、本作で特に心に残ったのが、登場する女性たちの装いでした。

 私が戦争映画や資料などで見てきた女性は、もんぺ姿や学生服姿が多かったように思います。

 そのため、髪にパーマをかけ、洋装を身にまとう女性たちの姿は、とても印象的でした。

 私がそこに感じたのは、まず、自分らしくありたいという思いです。

 おしゃれが好きだから、おしゃれをしたい。

 美しくありたいから、自分の好きな服を着たい。

 今の私たちなら自然に抱くような気持ちを、戦時下の彼女たちも持っていた。そのことが、読んでいて伝わってきました。

 食べることにも、生き延びることにも苦労する時代に、おしゃれなんて。

 そんなふうに言われていたかもしれません。

 それでも、好きなものや大切にしたいものまで、時代に合わせて手放さなければならないのか。

 彼女たちの姿を見ていると、服装や髪型は、その人がその人であるために大切なものにもなるのだと感じました。

 過酷な時代にも、確かに「エレガンス」はあった。

 タイトルが、読み進めるほどに心に残る作品だなと思いました。

(4)謎の難しさ以上に、捜査の過程で見えてくるものがある

 ミステリー部分については、私にも見当がついたこともあり、謎解き部分は難しい作品だとは感じなかったし、驚きもなかったなと思います。

 意外な真相に驚きたいという期待で読むと、少し物足りなく感じる方もいるかもしれません。

 ただ、私にとっては、謎を追う中で見えてくる人々の姿が大切な作品でした。

 女性たちは、どのように生きていたのか。

 何を大切にしていたのか。

 事件を調べることで、亡くなった人たちの人生にも触れていく。その過程に読み応えはあったと感じます。

 そして、詳しくは書けませんが、終盤には、読んでいる私までその場に置かれたように感じる描写が待っています。

 改行が少なく、文字がびっしりと詰まったページ。

 私はそこに、作者がこの作品で伝えようとする熱い思いを感じました。

 読書だからこそ、ここまで迫ってくるものがあるのかもしれない。

 そう思うほど、強く印象に残っています。

(5)読み終えて、私も「エレガンスに生きてみたい」と思った

 本作を読み終えて思ったのは、こんな日々を、もう誰にも経験してほしくないということでした。

 夜に眠れること。

 明日の予定を考えられること。

 好きな服を着て、好きなものを楽しめること。

 自分が普段、深く考えずにしていることが、どれほど大切なのかを感じます。

 自分が好きなものや、大切にしているものを、自分できちんと大切にする。

 本作の女性たちを見ていると、その生き方に憧れます。

 戦時下の連続不審死を追うミステリーとして読み始めて、最後には、自分自身がどう生きたいのかに思いが向いた。

 私にとって『エレガンス』は、そんな作品でした。

④こんな方にオススメ

  • 戦時下の東京を、人々の暮らしや仕事を通して描いた小説を読みたい方
  • 過酷な状況でも、自分らしさを守ろうとする女性たちの物語に惹かれる方
  • 謎解きとともに、登場人物の生き方も味わいたい方
  • 戦争によって奪われる日常や、平和について考えたい方

 空襲下でも事件を追う警察官と、美しくあろうとする女性たち。

 その姿から、当時の東京で確かに生きていた人々の思いに触れる一冊です。

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