今回は、『ヒミコの暗号 上・下』(伊勢谷武)を紹介します。
邪馬台国はどこにあったのか。卑弥呼とは何者だったのか。
タイトルからは、そんな古代史の謎を追う物語を想像するかもしれません。けれど、本作で描かれるのは、邪馬台国が九州にあったか畿内にあったかという問いだけでは収まらない、壮大な歴史ミステリーです。
作中に示される大量の資料を手がかりに歴史を読み解きながら、主人公がなぞの人物達から追われ、真実へと近づいていく。その展開には、『ダ・ヴィンチ・コード』を読むような楽しさがありました。
一方で、上巻以上に下巻では日本神話に関する内容も増え、知識が追いつかなくなる場面もありました。日本神話の知識がないとやや厳しいなと感じるところも…
日本の縄文時代~平安時代くらいまで(特に邪馬台国前後)の興味があれば驚きと好奇心を味わえる作品ですが、気軽な邪馬台国の謎解きを期待すると、難しく感じるかもしれません。
※この記事では、暗号の答えや結末に触れるネタバレを避けて感想をまとめています。
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①あらすじ
東大で考古学を専攻する十条叶羽は、祖母が遺した暗号文をきっかけに、日本の古代史に関わる謎を追い始める。
AI「チャットベリタス」を使いながら史料を読み解くうちに、神話や歴史の記録、和歌に隠された物語が浮かび上がっていく。
邪馬台国はどこにあったのか。卑弥呼とは誰だったのか。そして、なぜ歴史は書き換えられたのか。
歴史の闇の一端に触れた叶羽は、謎の人物や組織に追われる立場になりながらも探究を続ける。
やがて、その旅は古代日本の謎だけでなく、自身の血に関わる秘密へとつながっていく。
②読んだきっかけ
いつも通り、店頭で見つけた本作品。
タイトルが『ヒミコの暗号』と書いていて、日本史で特に縄文~飛鳥時代くらいが大好きだった私にとって大好物なタイトル。
邪馬台国が畿内?九州?の話?それだけ想像してもワクワクしてしまう私が、手に取らないはずもなく…
分厚いし、上巻?(購入したときは上巻しか発売していなかった)と思いつつ、興味が湧くなら読むしかないやろ?
と思いながら、無事に購入いたしました(笑)
③感想・レビュー
(1)知っているはずの日本史が、壮大な謎に変わる
上巻を読んで面白かったのは、邪馬台国や卑弥呼の謎から、知っているつもりの日本史への疑問が広がっていくところでした。
「飛鳥は本当に奈良だったのか?」
そんなことまで考えたくなる内容で、当然のように受け止めていた地名や歴史の説明が、違って見えてきます。
歌にも真実を読み解く手がかりがあるのか、という視点も印象に残りました。
歴史を覚えた知識として扱うのではなく、残された言葉や資料から、過去に何があったのかをAIから提示された内容を通して考える。その過程に、ミステリーとしての面白さがあります。
下巻では、歴史の謎と叶羽自身に関わる秘密が重なり、物語はさらに大きくなっていきます。
タイトルに「ヒミコ」とありますが、邪馬台国の場所を探すだけの物語ではありません。神話、遷都などなど、弥生時代の邪馬台国だけではない広がりに驚かされる作品でした。
(2)大量の資料と、追われながら謎を解く展開が面白い
上下巻を通して感じたのは、『ダ・ヴィンチ・コード』のような展開の楽しさです。
叶羽は謎の組織に追われながらも、資料や暗号を手がかりに真実へと迫っていきます。
落ち着いて歴史を調べるだけではなく、危険が迫る中で謎を追う。その緊張感が、歴史の説明を読む面白さと結びついていました。
また、本作では、実際の史料や研究成果に基づく資料が使われていると説明されています。
物語を成立させるために資料そのものを都合よく作るのではなく、既存の資料から物語を組み立てる。その試みに、読み応えを感じました(ダヴィンチコードなどのこの手のジャンルは資料は本物ではなくてはならないというあとがきを読んでなおさら敬意しかないなと感じた部分でもあります)。
もちろん、資料が実在することと、そこから導かれる解釈が正しいことは別です。
それでも、これだけの資料に触れながら、「そういう見方もあるのか」と考えられることには、一読の価値があると思います。
上巻では図や資料も助けになり、章のなかでも割と物語が区切られていて分厚さのわりに読み進めやすい印象でした。
知識を得る楽しさと、先を知りたくなるエンターテインメント性。その両方を味わえるところが、本作の魅力だと感じます。
(3)下巻で実感した、日本神話への馴染みのなさ
一方で、下巻は上巻よりも難しく感じました。
上巻は、高校で学んだ日本史の知識で何とかついていける印象でした。壬申の乱や箸墓古墳など、聞き覚えのある言葉が、理解の手がかりになります。
けれど、神話が出てくると、馴染みがなさすぎて話を追えなくなる場面もありました。
日本の物語なのに、日本人の私にも、日本神話はこんなに身近ではないのか
本作を読んで、そのことを実感しました。よくよく思えば天照大御神とか名前は知ってても神話というのはほとんど知らないなと…
私自身、学校で学んだ歴史の知識はあっても、神話や古代史の細かなつながりまで理解する機会は、あまりなかったように思います。
比較対象が『ダ・ヴィンチ・コード』になってしまいますが、、聖書を読んだことがなくても、何となく物語を追える感覚があったものの、日本の神話は複雑すぎるなと感じました(ダヴィンチコード内でもマグダラのマリアを知らなくてもある程度説明があったので、そこで躓くことはなかったのですが、本作は神話の家系図みたいなのを示していてもそのあたりよくわからんとなりました。)
本作では、私にはそれが難しい部分もありました。神話や歴史の関係が複雑で、何がどうつながっているのかを整理するだけでも、大変だなと。まして、読んでいる時に整理しながら読みたいかというと、そこまでと個人的には思ったので…
そういう気持ちになると、資料を読まされている感じにもなるので、興味がないと読みづらいなと感じた作品です。
(4)気軽な邪馬台国ミステリーを期待すると、戸惑うかもしれない
『ヒミコの暗号』というタイトルから、邪馬台国は九州か畿内か、といった謎に気軽に迫る作品を想像すると、戸惑うかもしれません。
本作が扱うのは、それだけでは収まらない歴史や神話のつながりで、闇に葬られているかもしれないという歴史です。
歴史にあまり関心がない状態では、情報量や複雑さが負担になる可能性があります。というより、興味と多少の知識がないと厳しいと思います。箸墓古墳?ヤマトトソモモソヒメノミコト?っとなっている方には、スマホ片手に調べながら読んで楽しめる方でないと正直厳しいのではないかと思います。
反対に、多少の知識と興味があれば、「マジか!?」と思うような驚きを味わえる作品だなと思いました。
すべてをそのまま信じるというより、資料と解釈を分けながら、「そんな考え方ができるのか」と楽しむ。
私には、そんな読み方が合う作品だったなと思います。
④こんな方にオススメ
- 邪馬台国や卑弥呼の謎に興味がある方
- 古代日本の歴史や神話を、さらに知りたい方
- 資料や暗号を手がかりに進むミステリーが好きな方
- 『ダ・ヴィンチ・コード』のような展開を楽しみたい方
- わからない言葉を調べながら、長編をじっくり読みたい方
『ヒミコの暗号』は、大量の資料に触れながら、古代日本の謎をエンターテインメントとして楽しめる作品でした。
上巻は図や資料も助けになり、読み進めやすかった一方、下巻では日本神話への馴染みのなさから、難しく感じる場面もありました。
そのため、誰にでも気軽におすすめできる作品ではありません。
しかし、古代史への興味があれば、知っている歴史が違って見える驚きや、もっと知りたくなる楽しさがあります。
歴史はミステリーであり、想像を広げる楽しさという意味では、SFにも通じるものがある。
驚きを感じつつ読む面白さを味わえた、読み応えのある上下巻でした。
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