【ひなたの中継点】(森山世衣)感想・レビュー|爽やかな表紙の先にあるなんとも言えない暗さ。それでも、彼女たちの走りを応援したくなる

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 今回は『ひなたの中継点』を紹介いたします。

 襷が印象的な、陸上の爽やかさを感じる装丁に惹かれて手に取った一冊です。

 女子高校生たちが仲間と襷をつなぎ、全国の舞台を目指す。そんな、まっすぐな駅伝青春小説を想像していました。

 ところが、読み始めると、冒頭から何やら不穏な雰囲気が漂っています。さらに、大会へ向けた女子アスリートの調整の難しさや苦労も生々しく描かれており、

 思っていた爽やかさとは、だいぶ違うぞ……。

 と感じることに。

 それでも、いざ彼女たちが走り始めると、自然と応援してしまう。特に部長の麦が走る場面は、そこまで物語に暗さや苦しさがあるからこそ、余計に光って見えました。

 期待していた読書体験とは違いながらも、読み終えると「よいものを読んだな」と感じた駅伝小説でした。

ひなたの中継点 (文春e-book)

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①あらすじ

 全国高校駅伝の舞台・都大路での優勝を目指す、大阪の緑谷高校。

 予選となる大阪駅伝では連覇中で、今年も優勝候補に挙げられる実力校です。

 部長を務める3年生の麦と、絶対的エースの瑞月。しかし、大阪駅伝を目前にして、瑞月が自転車のひき逃げ事故に遭い、けがで走れなくなってしまいます。

 エース不在となった緑谷高校は、大阪駅伝を突破し、都大路の舞台に立つことができるのか。

 全国制覇を目指す彼女たちの前に、不穏な出来事が立ちはだかります。

②読んだきっかけ

 読んだきっかけは、いつも通りの装丁(ジャケ買い)です。

 襷が印象的で、陸上の爽やかさを感じる表紙に惹かれました。

 装丁だけ見たら仲間とともに苦しい練習を乗り越え、全国の舞台を目指す。そんな青春小説だと思うだろ?

 爽やか女子たちが織り成すちょっときゃぴきゃぴ系の駅伝の青春小説でミステリーだってライトな感じなんでしょ?と。

 そんな私を実際に待っていたのは、そのイメージよりもかなり暗く、生々しい物語でした。

③感想・レビュー

(1)爽やかな駅伝青春小説かと思えば、冒頭から何かがおかしい

 エースがけがで走れなくなり、残されたメンバーたちが全国を目指す。

 あらすじだけなら、仲間との絆や努力を描いた、王道のスポーツ青春小説にも思えます。

 走れないエースを全国大会に連れて行くんだ的な。

 しかし、本作は、瑞月が大会前の自転車のひき逃げ事故に遭うところから、既におかしな雰囲気があります。

 瑞月の煮え切らない態度…

 これ、絶対に何かあるよな。

 誰かの陰謀なのか、もしかしたら何か隠していているのか…そんな空気の中で、物語が始まるわけです。

 しかも、麦たち緑谷高校のメンバーが、全国大会である都大路の舞台に立つことすら妨げられているように感じるシーンもしばしば…

 緑谷はエースを欠いてライバル校に勝てるのかなど自分たちの力を出し切れるのか。それだけに集中させてくれる物語ではありません。

 なぜそんなダークなことになっているのかという部分や謎をめぐる部分も含めて、全体的に爽やかさよりも現実的な生々しさを感じる内容です。

(2)女子アスリートが大会へ向けて調整する大変さが生々しい

 そして、本作の重さは、不穏な出来事だけではありません。

 女子アスリートが大会に向けて調整する難しさや、その過程で抱える苦労も、生々しく描かれています。

 私がテレビや新聞で目にしてきたのは、笑顔や悔し涙を見せながら、全国の舞台で力を尽くす選手たちです。

 そこから、スポーツってどこか爽やかなイメージを持っていたのですが、この物語では、その姿だけでは見えてこない厳しさを感じました。

 全国の舞台に立つだけでも大変なのに、そこへ向かうまでにも、これほどの苦労があるのか。

 作中では、月経を含む体調管理の難しさや、競技のためにさまざまな制約と向き合う姿も描かれています。

アスリートして活躍するためにいろんな制約があるなかで自分を鍛えていかなければならない。そのストイックなことを高校生というまだあどけなさの残る少女たちがやっているのだと思うと、華やかな世界だと思っていた世界の裏側は本当に大変なんだなと思いました。

 明るくにぎやかな女子高校生たちが、仲間と楽しく走りながら成長していく。そうした青春のイメージだけでは読めない作品です。

 爽やかな駅伝小説を期待して読むと、「思っていたのと違う」と感じるかもしれません。

 私自身、表紙から想像していた雰囲気との違いには、かなり驚きました。

 そして、読後は今活躍されている全女子アスリートには尊敬の念しか抱けないなと思いました。

(3)暗い道中があるからこそ、麦の走りが光って見える

 ただ、暗いだの、思っていた爽やかさとは違うだのと書いてきましたが、駅伝の場面は、しっかり応援したくなるものになっています。

 特に、部長の麦が走るところは、読みながら自然と物語に入り込んでいました。

 それまでは、不穏な出来事や彼女たちの苦労が気になっていたのに、走り始めると、目の前の麦を応援する気持ちになっていく。

 この感覚がよかったです。

 そこまでの道中が暗い分、走る姿が余計に光って見えるように思いました。

 何度も書きますが、本作品は単純に爽やかな物語ではありません。それでも、彼女たちを応援したくなる熱さは、確かにあります。

 期待していた読み味とは違ったものの、駅伝小説として心を動かされたのは、こうした場面でした。

(4)謎解きには気になる部分も。それでも、読後の満足感は残る

 一方で、謎解きの部分については、

 ロジックとしては、どうなの?

 と感じるところもありました。

 冒頭から漂う不穏さに引っ張られて読み進められるものの、謎が解き明かされる部分に、すべて納得できたわけではありません。

 そのため、緻密な謎解きや、きれいに腑に落ちる気持ちよさを期待すると、引っかかるところはあると思います。

 ただ、私の場合は、それでも読み終えたときに、

 よいものを読んだな。

 と思えました。

 彼女たちが抱える苦労や、そこから走り出す姿が、気になる部分を含めても読後に残ったからだと思います。

④こんな方にオススメ

  • 明るさだけではない、苦さのある青春小説を読みたい方
  • 競技に打ち込む高校生の葛藤や苦労を描いた物語が好きな方
  • 不穏な展開と、スポーツの熱さを楽しみたい方
  • 全国の舞台を目指す女子駅伝の物語に興味がある方

 爽やかな装丁から手に取ったものの、実際に待っていたのは、暗さと生々しさのある駅伝小説でした。

 女子アスリートが大会へ向けて抱える苦労に加え、冒頭から続く不穏な展開。謎解きにも気になる部分があり、何もかもが気持ちよく読めたわけではありません。

 それでも、部長の麦が走る場面では、自然と応援している自分がいました。

 暗い道中を読んできたからこそ、その走りが光って見える。

 ひたすら爽快な駅伝小説を求めていると戸惑うかもしれませんが、苦しさも含めて競技に向き合う彼女たちの姿が、印象に残る一冊でした。

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