【紅茶とマドレーヌ キャロットケーキの愛情】(野村美月)の感想・レビュー|40代になっても、もう一度輝けることを教えてくれるシリーズ第3巻

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 今回は、『紅茶とマドレーヌ キャロットケーキの愛情』(野村美月)を紹介します。

 本作は、シングルマザーの姫乃が店長を務める屋根裏ティールーム「エミリー」を舞台に、お菓子を通じて人と人との関係が少しずつ変わっていく様子を描いた物語のシリーズ第3巻となります。

 おいしそうなお菓子の描写はもちろんですが、シリーズのはじめから姑にいびられて高校時代の輝きを失っていた40代のルイが家族との関係を変えながら、徐々に高校時代に持っていた輝きを取り戻していく姿が見えたのが特に楽しかったです。

 いくつになっても、人は自分らしさを取り戻すことができる。

 そんな前向きな気持ちになれる、温かい巻でした。

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①あらすじ

 シングルマザーの姫乃が雇われ店長を務める屋根裏ティールーム「エミリー」は、奏園女子学院の生徒たちから人気を集めています。

 姫乃の一人娘で、高等部に通う笑里は、ある日、押し花の付いた手紙によって中庭へ呼び出されます。

 愛情のこもったキャロットケーキをはじめ、さまざまなお菓子をきっかけに、それぞれが抱えていた悩みや家族との関係が少しずつ動き始めます。

 シリーズ第3作となる本作でも、お菓子が人と人との間を優しくつないでいきます。

②読んだきっかけ

 これまで『紅茶とマドレーヌ』シリーズを読んできたこともあり、第3作が刊行されたと知って手に取りました。

 新刊が出て書店で並ぶのを見るたびに、

 野村美月先生、作家活動できるほどには元気なのだな

 となぜか安心してしまう私ですが(笑)

 他のシリーズもありながらシリーズの巻が重なっていくのを楽しみつつ、私も読みたいシリーズは追いかけるという方向で読ませていただいております(なんの報告やねん)

③感想・レビュー

(1)お菓子が、人と人との関係をつないでいく

 シリーズを通して本作の大きな魅力は、お菓子が単に物語を彩るだけではなく、人と人との関係をつなぐ役割を果たしているところです。

 誰かのために作られたお菓子には、その人への思いや、言葉だけではうまく伝えられない愛情が込められているというのが伝わってくるのが、いつもの本シリーズだなと思いました。

 登場人物達は、それぞれに家族や周囲の人との関係に悩みを抱えています。

 すぐにすべてが解決するわけではありませんが、お菓子を作ったり、一緒に食べたりする時間の中で、それまで伝えられなかった気持ちが少しずつ相手へ届いていきます。

 現実でも、食べ物の味と一緒に、そのときの出来事や一緒に過ごした人を思い出すことってありますよね。

 小学生の時に母親と地下の蕎麦屋で食べた出汁の味、パートナーと初めてデートしたときに食べたファミレスのハンバーグなどなど…食べ物とその味はただ味わうだけではなくあの日の出来事を思い出させてくれる。

 本シリーズを読んでいると、お菓子は空腹を満たすだけではなく、人の記憶や感情を呼び起こし、離れていた心を近づけるものなのかもしれないと感じる作品になっているなと思いました。

(2)ルイがどんどんルイ様になっていく

 本作で特に印象に残った登場人物は、ルイです。

 初巻から登場するルイは高校時代、バレーボール選手として輝いていました。

 しかし、家庭の中で自分を抑えるようになり、かつての自信や輝きを見失っていて、家庭内で上手くいかなかった登場人物です。

 そんなルイが周囲の人たちと関わる中で、少しずつ変わっていき、昔のルイ様を取り戻した感があるシリーズ3作目でした。

 特によかったのは、ルイが変わることで、家族との関係まで徐々によくなっていくところです。

 初巻では姑、2巻目では義理の息子、3巻目では夫。

 家庭内でどんどん他の家族と関係が良好になり、自信を取り戻していくのがわかって、それが本シリーズでは一番好きなシーンだなと改めて思いました。

 お互いのことを思っていたとしても、言葉や態度にしなければ、すれ違ってしまうこともあります。

 しかし、ルイが自分らしさを取り戻していくにつれて、家族との間にあった距離も少しずつ変化していきます。

その姿を読んでいると、人が再び輝き始めるのは何かのきっかけなんだなと思うし、年齢は関係ないのだと思えました。

 若い頃のように戻るのではなく、これまで積み重ねてきた経験を持ったまま、もう一度自分らしく生き始める。

 40代だからこそ見つけられる輝きがあるのかもしれません。

 私自身も同じ40代ということもあり、ルイが高校時代の輝きを取り戻して強くなったルイ様へ変わっていく姿には、特に心を動かされました。

(3)大きな驚きよりも、日常の温かさを味わう物語

 本巻には、特に読みづらいと感じるところはありませんでした。

 登場人物の関係や気持ちの変化も丁寧に描かれており、最後まで読みやすく、表現が正しいかはわかりませんが順当に面白いシリーズ3巻目だったなと思います。

 あえて気になる点を挙げるなら、日常を中心に描いた物語なので、読者を驚かせるような大きな展開はそれほどありません。

 次々と事件が起こる作品や、予想を裏切るような展開を求める方には、少し穏やかすぎると感じられるかもしれません。

 ただ、本作は驚きのある展開を楽しむというよりも、登場人物たちの関係が少しずつ変わっていく過程を味わう作品だと思います。

 劇的な出来事がなくても、家族との会話や、お菓子を囲む時間によって、人の心は変わっていきます。

 派手さはありませんが、その穏やかさこそが、このシリーズの魅力なんだろうなと改めて思いました。

④こんな方にオススメ

  • お菓子や紅茶が登場する物語が好きな方
  • 人と人との温かなつながりを描いた作品が好きな方
  • 家族関係の変化を描いた物語を読みたい方
  • 40代から自分らしさを取り戻す物語にひかれる方
  • 派手な展開より、日常の優しい物語を楽しみたい方
  • 読後に温かな気持ちになれる作品を探している方
  • 『紅茶とマドレーヌ』シリーズを読んできた方

 お菓子を通して、人と人との気持ちが少しずつつながっていく『紅茶とマドレーヌ キャロットケーキの愛情』。

 なかでも、家族との関係を変えながら、かつての輝きを取り戻していくルイの姿が心に残りました。これは、シリーズのはじめから読んでいるご褒美みたいなものかなと思います。

 40代になったからといって、人生の輝きが失われるわけではありません。

 自分らしさを思い出し、もう一度前へ進もうとすることで、人はいくつになっても輝けるのだと思います。

 おいしそうなお菓子の描写とともに、家族の愛情や人生の再出発を感じられる、優しく温かな一冊でした。

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