戦時下の空襲が始まった東京で自分らしく生きることとは?【エレガンス】(石川智健)の感想・レビュー

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①あらすじ

 空襲が激化する1945年1月、警視庁でただ一人、ライカのカメラを扱える石川光陽。写真室勤務である彼の任務は、戦禍の街並みや管内の事件現場をフィルムに収めること。

 折しも世間では、女性四名の連続首吊り自殺が報じられていた。四人は全員、珍しい洋装姿で亡くなっており、花のように広がったスカートが印象的なため“釣鐘草の衝動”と呼ばれ話題となっていた。

 ある日突然、警視庁上層部から連続する首吊り事件の再捜査命令が光陽にくだる。

 彼と組むのは内務省防犯課の吉川澄一。光陽が撮った現場写真を見た吉川は、頸部索溝や捜査記録の重要性を説く。自殺説に傾く光陽に対し、吉川は他殺を疑っていた。

 捜査が進む中で、四人の女性にはある共通点が判明。激しさを増す空襲の中でも、光陽と吉川による必死の捜査が続き、吉川は決然と捜査の意義を語る――。

 「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」

 さらに光陽と吉川の前に、戦時中でも洋装を貫く女性の協力者が現れる――。

 本作は、統制下という世界によって自分が変えられないようにするため、美しくありたいと願う、気高い女性たちの物語。

※Amazon商品紹介ページより引用しております。

②読んだきっかけ

 『ゾンビ3.0』以来、石川先生の新作は読んでいる私。

 今回ももちろん発売前から全裸待機して発売日を待っておりました!!

 というわけではなく、滅多に売れない私のアマゾンアソシエイトに初めて発送前の未確定報酬なるものが出ていて、何事?と思って私経由で売れた書籍のタイトルを確認したら、石川先生の新刊をどうやら予約したらしいということがわかり、久しぶりに新刊が出るんじゃね?と思い、マークしてました。

 戦時下での東京で起きた女学生の変死事件を追うミステリーということで、正直その組み合わせのミステリーを読んだことがなかったなと思い、どんな話なのだろうか?と思いながら購入することを決めました。

③感想・レビュー

 2025年で戦後80年という月日が経過いたします。

 私が小学生だったときは戦後50年ということもあり、徴兵で戦地に行って生き残った方や当時20代で空襲を経験した方々が学校などで体験を語ってくださったことを今でも覚えております。

 戦後に生まれた私は、日本が戦争していたことは歴史の教科書や太平洋戦争を描いた映画や小説、夏休みに放送されるジブリの『火垂るの墓』くらいしか戦争を知る術がほとんどない状況で、生き証人と言える人々が今の日本にはほとんどいないのだなと思います。

 話が逸れているのですが、本作品を読み終えて、まさに今書いたようなことを思いました。

 本作品は、日本の戦時下で東京にも空襲が始まった頃の1945年1月から始まり、戦時下という特殊な状況の中で洋裁女学校の生徒の連続不審死を描いたお話なのですが、戦時下の空襲で夜もゆっくり休めない、空襲で爆弾や焼夷弾を落とされてリアルに人が死に遺体が平気で道端に転がるような日常だった東京が描かれていて、語り手の登場人物と一緒に当時の東京にいるような体験をしているような気持ちになれる希少な作品なのではないかと思います。

 そして、戦時下でも身内を失っても、明日を知れなくとも、空襲中でも職務を全うする警察官の姿があり、戦時下でも自分たちの職務を遂行していたんだなという当たり前のことに気づかされます。

 この感覚は、私としては『逃亡者は北へ向かう』(柚月裕子)を読んだ時にも思ったのですが、そういうテレビの映像や教科書からではわからない戦時下でも職務、使命を遂行する姿は想像しようとしてもなかなか想像できないものだと思うので、それだけで貴重な気づきや体験をさせていただいたなと思えます。

 また、戦争映画や資料で目にする女性の姿って、大体モンペ姿か学生服なのですが、本作品に出てくる女性は髪にパーマをかけて洋装です。

 戦時下でも美しくいたい、おしゃれをしたいという女性が描かれていて、それは別に非戦とか反体制とかを示しているのではなく、ただ自分らしくありたいという思いから出ているところというのが凄いなと思いました。

 確かに、映像でも洋装の女性って戦時中を描いた作品であまりみかけた記憶がなかったし、パーマかけてる女性も見た記憶がないなと。

 今の私たちの感覚では、若者を徴兵して玉砕させるわ、国民を飢えさせるわ、訳の分からん統制はとらせるわで狂ったことを国をあげて平気でやってたなと思う戦時中の日本でもタイトルの「エレガンス」はあったんだと気がつく作品だなと思います。

 連続不審死事件というミステリー部分は私が解けたということもあって、そこまで難しくなかったなと思うのと、わかりやすいなと思いましたが、どちらかというと謎を解く過程に大事なことがたくさん潜んでいるという内容だったので、むしろ思った通りで良かったんじゃないかと思います。

 ミステリー部分が解決した後は…私はこれまで体験したことがなく、おそらく読書でしか体験できないであろう、戦争体験が待ち受けています。

 改行もないびっちりと文字しか埋まっていないページに作者の本作品への魂を感じました。

 今や、戦争というとロシアとウクライナの戦争だったり、戦闘行為というとガザ地区への攻撃などの映像などでしか知れない世界。でもその残酷で悲惨なことを80年前の日本は加害もしたし被災もしたけども、今の日本は焼夷弾や爆弾で無念に亡くなった人の遺体が道端におちているということはないし、それが明日すぐに起きるかもしれないと想像なんかしかくてもよい国になりました。

 これからもそんな日本であってほしいし、世界もそんな世界になってほしい。

 そんなことを思いながら、自分自身も今は戦時下でもないし、抵抗する必要はないのだけれども「エレガンスに生きてみたい」そんなことを思った作品です。

④こんな方にオススメ

・戦争末期の狂った日本のエレガンスを感じたい方
・もう二度と戦争なんて起こってほしくないという思いを共有したい方

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