私にとって、あなたにとっての満点のゴールとは?【満天のゴール】(藤岡陽子)の感想・レビュー

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①あらすじ

 奈緒(33歳)は、10歳になる涼介を連れて、二度と戻ることはないと思っていた故郷に逃げるように帰ってきた。

 長年連れ添ってきた夫の裏切りに遭い、行くあてもなく戻った故郷・京都の丹後地方は、過疎化が進みゴーストタウンとなっていた。

 結婚式以来顔も見ていなかった父親耕平とは、母親を亡くして以来の確執があり、世話になる一方で素直になれない。そんな折、耕平が交通事故に遭い、地元の海生病院に入院。そこに勤務する医師・三上と出会う。

 また、偶然倒れていたところを助けることになった同じ集落の早川(72)という老婆とも知り合いとなる。

 夫に棄てられワーキングマザーとなった奈緒は、昔免許をとったものの一度も就職したことのなかった看護師として海生病院で働き始め、三上の同僚となる。

 医療過疎地域で日々地域医療に奮闘する三上。なぜか彼には暗い孤独の影があった。

 一方、同じ集落の隣人である早川は、人生をあきらめ、半ば死んだように生きていた。なんとか彼女を元気づけたい、と願う奈緒と涼介。その気持ちから、二人は早川の重大な秘密を知ることとなる。

 隠されていた真相とは。そして、その結末は・・・・・・・。

※Amazonの商品ページより引用しております。

②読んだきっかけ

 本作品の続編にあたる『春の星を一緒に』で作者の作品の初読みをした私。

 語り手のヒロイン奈緒とその息子涼介、そして三上先生にその前があるのかと思うほどに読み入ってしまった作品。

 『春の星を一緒に』を覚えているうちに読まねばなるまい

 そう心に決めて読んだ作品。

 無事に早いうちにたどり着くことができました(笑)

③感想・レビュー

 『春の星を一緒に』でも知っている登場人物たちの前日譚感覚で読んだ私。

 奈緒はペーパー看護師だし、三上先生は謎のさわやか医師だし、涼介が小学4年生!?

 いろいろと年を経過する前の登場人物を前に過去にタイムスリップした感覚でした。

 『春の星を一緒に』でも作中名前の出てくる早川さんってこういうひとだったんだとか、奈緒の離婚した夫どころか夫の再婚相手、思った以上にやばい(笑)とかいろいろ思いながら読んでました。

 作中のテーマは過疎地域の医療なのですが、悲壮感というよりはどちらかというと、タイトルのように満天(満点?)のゴール(死)とはどんなものなのだろうかという死に対する希望の物語だったなと思っています。

 人生で死ぬことは1回しかできない

 その死の迎え方という意味では次作にあたる『春の星を一緒に』も同じかなと思うのですが、今回は高齢の過疎地域で診療所もない地域での訪問診療を描いた作品になっています。

 人間は死ぬ。いつか必ず。

 その死を迎える場所はどこが良いのか。

 自宅が良いのか、病院で最後まで死に抗いながら生きるのが良いのか。

 安楽死とか、自殺なんかも死の選び方と言えなくもないですが、本作品で描かれているのは、高齢で寿命を全うしたい方の最後の死に場所の選択が描かれています。

 読んでみて思うのは、

 人の死は日々一生懸命に生きた先でこそ満天のゴールとして輝くのではないか

 ということ。

 そして、死に場所を選択できるというのは幸せなことなんじゃないかなと思いました。

 私たちは、健康であるかにかかわらず常に死のリスクを抱えてます。

 外を歩けば交通事故で亡くなるかもしれないし、地震などの災害で命を落とすかもしれない。お風呂でヒートショックで急死することだってあり得ます。

 そう思うと、自分の死期がある程度分かって、それでもどこで死にたいかを思い、そのゴールに向かって最後を迎えるというのは羨ましいことかもしれないなと思いました。

 そして、私の去年、亡くなった母はその最後を本当は選べたはずなのに、私や家族が母に回復してほしいという気持ちを押し付けて、望まないところで最後を迎えさせてしまったのではないか?

 いや、最後は家族に囲まれて幸せな気持ちで旅立てたのかもしれない。

 どっちなんだろうか?

 そんなことをふと読みながら思った作品です。

 作品の中身の感想とは違いますが、その答えは亡くなった母しかわからないことですが、ただ、その時のことを思い出して辛くとも、こんなことを思いながら記憶の中の母と久しぶりに出会えたような気持ちになった作品。

 私が母と出会えるのは、過去に撮った写真か映像か、小説の中に出てくる母親などを通じて記憶を辿るくらいしかできなくなったんだなと実感した作品でもありました。現実では母にはもう二度と会えませんが、私の頭の中にいる母は今も記憶の中で生き続けているのだなと思うと嬉しいなと思った作品でもあります。

④こんな方にオススメ

・死ぬことって怖いなと感じている方
・死ぬ場所を選ぶということに興味を持たれた方
・日々一生懸命生きることってどんなことだろう?と考えたい方

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