少しずつだけど現実と向き合って成長していく物語【給水塔から見た虹は】(窪美澄)の感想・レビュー

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①あらすじ

 中学2年生の桐乃は、団地での暮らしに憂いていた。

 郊外にある古い団地群には、様々な国にルーツを持つ人が生活している。

 そのせいか桐乃のクラスは衝突が絶えず、ベトナム人のクラスメイト・ヒュウがいじめの標的になっていたのだ。

 家に帰っても、母の里穂は団地に住む人々を国籍問わず日夜助けており、「娘の私より、他人を優先するんだ」という思いがどうしても消えない。この場所で生活することに対する桐乃の嫌悪感は、日々強まっていく。

 そんな中、中学校で起きたとある出来事をきっかけに、桐乃はヒュウと話すようになる。ヒュウは、理由は違えども、桐乃と全く同じことを望んでいた。

「この団地から出て、遠くに行きたい」と。

 はじめてできた友達、母とのすれ違い――。

 桐乃・ヒュウ・里穂のそれぞれの視点から、社会に蔓延る様々な分断に翻弄される2人の“こども”が少しずつ“おとな”になるひと夏を描いた、ほろ苦くも大きな感動を呼ぶ、ある青春の逃避行。

※Amazonの商品レビューより引用しております。

②読んだきっかけ

 窪美澄先生はかねてより存じ上げていた先生なのですが、今まで読む機会がなかなかなく、気が付いたら5年くらい一度も読んだことがない作家先生になっていたのですが、本作品を店頭で見かけた時に

 「水色で何が表紙になっているのかわらからないけども、夏らしい綺麗な装丁だな」

と思って、購入に至りました。

 給水塔から見た虹っていうどことなく綺麗な虹をイメージしながら、どんな話かも知らずに。

 はい。いつもの私のいつも通りのチョイスでございます(笑)

  前情報が何もない状況で読んだ本は果たして?

③感想・レビュー

 表紙の綺麗さや爽やかそうな海やら綺麗な水泡からは想像できないほどに、登場人物の直面する現実はまぁまぁ理不尽。

 また、現実的でしんどい試練を各登場人物に与えていくなぁというのが読んでいて思ったことです。

 物語は、団地に住む中学2年生の桐乃、桐乃の同級生のベトナム人のヒュウ、桐乃の母の3人の視点で描かれます。

 もともといろいろな悩みがある3人ですが、中学2年の1学期でさらにいろいろなことに直面していくという内容で、そこで一つ気づきがそれぞれにあり、夏休みに大冒険をすることを境に少しずつ成長していくというお話なのかなと思います。

 そして、本作品の大元にあるものが「分断」。

 最近、某アメリカとか、日本でもそうですが、この「分断」という言葉、しょっちゅう聞きます。

 日本でも最近はクルド人がどうだとか耳にするし、分断を進めていこうともとれるような政党が躍進したりしてますよね。

 本作品も日本人の同コミュニティー内での分断、日本人とそれ以外の国の人々との分断は、今の日本でも確かに起こっていることでもあるよなぁと思いながら読みました。

 「ボートピープル」、「技能実習」など日本にきているベトナム事情も描かれているのですが、基本的にはボートピープルや技能実習の闇の部分が描かれています。そして、その闇の中にも光はあるというような感じで、どこか温かさも感じました。

 私自身、ベトナム人と出会うことは、仕事柄書類上でしかほぼ出会わないですし、街中を歩いていても観光客以外で日本人以外に出くわすことはほとんどありません。

 学校時代の友達や知り合いに在日韓国人の人がいる程度。大学時代の師匠がアメリカ人というくらいで、正直、本作みたいにある程度の手助けの必要な方々も見当たらない、出会っても対価をいただいて手助けをするような感じです。

 そういう私からすると、本作品に登場するベトナム食材を扱っているスーパーを経営している、グエンさんが一番、私の中に響く言葉が多かったなと思います。

 手助けというのは最小限にするべきだとか、ボートピープルで日本語もわからず、本当に受け入れられるのかという不安の中、長い時間をかけて日本でベトナム人として生活をすることになじんできたことなど、読後から数日たった今でも、グエンさんの言っていることは心に残っているなと思います。

 今、ネット界隈だけかもしれませんが、クルド人を追放しろとかいろいろと言われていますが、暴徒化や問題視されているのはごく一部のクルド人の方で、多くのクルド人の方々も、日本になじむためにたくさんの努力をされて、受け入れられてきた歴史もあるなと気づかされました。

 そして、本作品を読んでいて、仲間や友達がいるということがどれだけ心強いかということを教えられる反面、仲間でいるために、誰かを共通の敵に仕立て上げたり、特定の誰かを仲間外れにしたり、やりたくないことをやったり、そういう負の面も見えてきます。

 このレビューを読んでいるあなたは、友達や仲間が悪さをしていたらそれには参加せず、友達にむしろダメだと教えるべきだというかもしれないし、やりたくないことまでやる必要はないというかもしれません。

 しかし、本当にそうですか?

 友達だから、自分が仲間外れにされたくないからといって、誰かをイジメたり、仲間外れにしたりしたことはありませんか?

 乗り気もないし、お金もないけども、行きたくもないママ友ランチに参加したりしませんか?

 そういうことに気がついて、じゃあ何か行動を起こさなければならないとかそういうことではないのですが、本作品を読んで何か感じるところがあったり、気がついたりするのであれば、それは、本作品の3人の登場人物と同様、自分自身の成長の兆しなのかもしれない。そんなことを思った作品です。

④こんな方にオススメ

・「分断」と「成長」と聞いて興味が湧いた方
・痛みの伴う成長物語を読んでみたいと思っている方

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